音ゲーの目線・視線についての研究が書かれた修士論文を読んでみた

ネットには本当に様々な情報が転がっているようで、最近では「視線追従装置を用いたリズムアクションゲームにおけるスキルの分析」という論文を発見した。

この論文は、ゲームプレイの際に最も重要と考えられる「目」に焦点を当て、ゲームプレイ中の視線の動きの初心者と熟練者の違いや、熟練者同士でもその熟練度合いによってなんらかの変化があるのではないかと考え、研究がはじめられたと記されている。

すべてを読むことで、リズムゲームの熟練者がゲームを行う際に発揮しているスキルについて理解が得られるだろう。

論文の内容は少々難しいものになっているがなかなか興味深いものでもあったため、結論だけを簡単に紹介しようと思う。

特に断りがない限り、この記事で使用している画像は「視線追従装置を用いたリズムアクションゲームにおけるスキルの分析」からの引用である。

目次

研究ではBMSをプレイ

結論を紹介する前に、研究で使用されていた機器やゲームを簡単に紹介しておこう。

まず、プレイするゲームは「BMS」と呼ばれるPCゲームで、下の画像のような7つのボタン(鍵盤)とスクラッチが用意された専用コントローラーを操作してプレイする。

なお画像のコントローラーは研究で使用されたものとは違うものである。

PHOENIXWAN
筆者が所持している7鍵コントローラー

スクラッチは左の円盤のことで、これを回転させて操作するのだが、本研究ではスクラッチを排除して実験が行われている。


実際のゲーム画面は以下のようなもので、プレイ画面の上部から落下してくるオブジェクトを判定ラインに達した瞬間に合わせてボタン入力をする。

そのタイミングによって「判定」が発生し、より正しいタイミングで入力が行えると良い評価が獲得でき、グルーブゲージが溜まっていく。

楽曲終了時にゲージが規定値に達しているとゲームクリアとなる。

BMS ゲーム画面
ゲーム画面

また、プレイヤーの視線を追従・計測するのには「Tobii Eye Tracker T120」という、液晶ディスプレイ一体型の視線追従装置が使用された。

プレイヤーにメガネやカメラを取り付けるといった負担をかけることなく測定が可能。

視線追従装置
液晶ディスプレイ一体型の視線追従装置

熟練者は視線を固定する

ゲームをプレイしたところ、初心者は画面上部から落下してくるオブジェクトを1つ1つ判定ラインまで見てから次のオブジェクトに視線を移行するという動きをした。

少し練習期間を与えられた初心者の場合、落下してくるオブジェクトを単一で追いかけるのではなく、ある程度の塊を1つとして認識して追いかける動きを見せた。

さらに熟練者になると、そもそもオブジェクトを追いかけず、視線が画面中央に固定されていた。

熟練者ほど視線は固定され、視線の動く範囲が狭くなっていることも観察されたとのこと。

音ゲー 視線の動き
左から、初心者、練習ありの初心者、熟練者

つまり、上達するにつれて【単一のオブジェクトを追いかける】→【ある程度の塊としてとらえる】→【視線を固定する】という段階を経ていくのではないかと予想される。


たしかに自分の経験を考えてみてもその通りだなと感じる。

初心者のころはオブジェクトを1個1個丁寧に追いかけていて、判定ラインとオブジェクトが重なる瞬間を意識していた。

しかし、オブジェクトの数が少ないうちはいいが、数が増えてくると処理が追い付かなくなって目で追えなくなってくる。

「ある程度の塊としてとらえる」というのが出来るようになると、処理できる量も増え、より高難易度のものに挑戦できるようになる。

私の場合は、意識して「塊」を見つけようとしていたように思う。

「オブジェクトとオブジェクトに関係性を持たせて、どれだけ塊として見ることができるか」、初心者の頃はこれを意識すると上達していったように感じる。


熟練者の「視線を固定する」は、「オブジェクト見えないじゃん」と思うかもしれないが、周辺視野を用いてぼんやりと全体を見ているのだろう。

よりプレイの上手い熟練者になるにつれ、視線の動きは小さくなることもわかっているため、音ゲーが上達するにつれ視線の動きが減少していくはずだ。

密度で視線が変化する

また、プレイヤーの中にはオブジェクトの密度によって視線の動きが変化することもあった。

特に、オブジェクトの密度が低いときはオブジェクトを追いかける傾向があり、密度が高くなるにつれ視線が固定され動きが少なくなるという特徴を見せた。

これは熟練者でも同様である。


実際、わたしも同じような動きをしていると思う。

オブジェクトが少ないときは1個1個を追いかけても処理が追い付かないということがなくなるから問題ないし、しっかり目で捉えたほうが精度が出しやすいことも多い。

0.5秒~0.6秒の知覚時間が高パフォーマンス

さらに、プレイヤーの多くは「ハイスピード」と呼ばれるオプションを使用し、パフォーマンスを向上させていた。

これは落下するオブジェクト間の距離を視覚的に広げることが出来る工夫であり、オブジェクトの間隔が広くなることで密度が低くなりプレイしやすくなる。

オブジェクトの速度を上げることでプレイがしやすくることは「音ゲーはノーツの速度をあげるだけで上達する」の中でも解説している。

ただし、間隔が広くなり密度が低くなる代わり、落ちてくるオブジェクトの速度が上昇するため、オブジェクトを認識できる時間は減少する。


ちなみに、人間がものを知覚するまでには0.25秒程度が必要だ。

この研究においても0.3秒の知覚時間でプレイした場合は評価が低く、処理を行う時間が与えられていないことが原因で満足にプレイできていないことがわかる。

熟練者のパフォーマンスが高くなったのは知覚時間が0.5~0.6秒のとき。

音ゲー 知覚時間による変化
熟練者のパフォーマンスグラフ


また、より高難易度の時は0.6秒より0.5秒のほうがパフォーマンスが高い。

さらに、0.7秒、0.8秒と知覚時間が伸びるにつれてパフォーマンスが低下したため、知覚時間が長すぎるのもよくないということがわかる。


初心者の場合は2秒~3秒の知覚時間でパフォーマンスが高くなったが、0.5~0.6秒は知覚時間が短すぎてプレイしずらいようであった。

これは、初心者はオブジェクトを追いかけるため縦方向の視線の移動が多く、それに伴いある程度の時間が必要になるからだと思われる。

ただし、初心者の場合でも知覚時間が長すぎるとプレイしずらいと感じるようであり、長すぎる知覚時間はパフォーマンスを下げるということが示されている。

音ゲー 知覚時間による変化
初心者のパフォーマンスグラフ

ノーツを塊で捉え動きを体に覚えさせる

初心者の頃はオブジェクトの知覚時間が2秒や3秒必要であるが、上達していくにつれ0.5秒~0.6秒ほどに減少していく。

これは、初めはオブジェクト1個1個を目で追いかけるのに時間が必要であったが、上達するにつれオブジェクトを塊として認識できるようになっていくためだ。


また、音ゲーの熟練者となると、視線を画面中央や上部に固定し、視線の移動はほとんど行われなくなる。

視線を固定しつつも周辺視野を用いて全体を見て、オブジェクトを塊で捉えているのだ。

さらに、熟練者はそのオブジェクトの塊に対応するボタンや指の動きを体に覚えこませている可能性が高い。

オブジェクトを捉えた後に「どのように指を動かそうか」などと思考する必要もなく、「このオブジェクトの塊はこう指を動かせばいいな」というのが無意識に行われているのだ。

我々が自転車をこぐときに、「右足を踏み込んで左足を上げる」なんて考えなくても運転できるように、音ゲーに関しても落ちてきたオブジェクトに対応する動きを無意識に行えるように成長するのだろう。

長年のプレイ経験により、「オブジェクトを捉え対応する動きを行う」という一連の処理を無意識で行えるようになることが、音ゲーが上達するということなのかもしれないと感じた。


より詳細に研究の内容や結果を知りたい人は、ぜひ論文を読んでいただきたい。

視線追従装置を用いたリズムアクションゲームにおけるスキルの分析

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